世界遺産でもある大森町の大きな特徴の一つは、町の中を「川」が通っていることです。大森町並み討論集会でまとめたデータによれば銀山川は、羅漢町橋で豪雨の降り始めから46分、三石谷川は羅漢寺付近で降り始めから26分で川の水が橋を超えるとの推計値が出ています。
川を良く知り、水害を正しく恐れ、水に親しむ世界遺産のまちであり続けるために共に学び・考えようと下記の会合を行いました。
概要
●日時:2024年4月14日(日)13:30~15:00(開場13:00)
●会場:大森町 町並み交流センター 多目的ホール
●内容
(1)下間久美子先生のお話
「文化財を大切にしつつ、町並みと暮らしを守ること」に関する事例を紹介
(2)パネルディスカッション・意見交換
高田龍一先生と下間久美子先生を助言者に、意見交換。
今回は特に町内の橋(羅漢町橋や京信寺橋)と護岸、川床などについて取り上げます。
【先生のご紹介】
下間久美子先生(國學院大學教授、日本イコモス副委員長、元文化庁主任文化財調査官)
高田龍一先生(松江高専名誉教授/環境・建設工学、市伝建審議会委員、主に防災を担当)
下間久美子先生のお話
- 町並み保存について
町並み保存は、暮らしを守る事=町並みを守る事、文化財をまもること
若い世代は綺麗になった町しか知らないので、町づくりの目標が分からず、過去の取組が意外と伝っていない課題がある。 - 大切なこと
「暮らしを守る」を意識的に共有していかないといけない。
保存は大事なものに対して行うもので、満足しているところでは保存が進まない。 - 人命か文化財か
文化財は人にささえられ、人は文化に支えられている
パネルディスカッション・意見交換
- 高田潤一さん
今の当たり前の社会で大事なことを忘れているのではないか。 - 大國晴雄さん
- 大森町の課題
消火栓設置から30年が経過した。
語り継がれていない18年豪雨。
他の町並み保存で被害が発生している。 - 18年9月豪雨
昭和18年9月豪雨では、30戸流失、13名死亡 - (大森の町並へ)雨水流れ込む範囲
狭い範囲が川に流れ込む すぐに川の水量になる。
羅漢町橋の最大通過水量 27立方メートル/秒
- 大森町の課題
- 住民:これまで、身の危険を感じる水害はなかったが、避難場所が本当に安全かなど、みんなが助かる
行動を考えていきたい。 - 住民:町を守ることを改めて考える必要がある。つねに対話をしながら行動に移せるように。町の守り方を、
地元でコントロール、マネジメント出来るように。 - 住民:消防団に所属している。昨年度、防災士の資格を取得した。知識、意識が高まったのは勿論、
「近助」という言葉を教わり、重要な考え方だと感じている。21年に水害で出動があったが、
集合しても情報がなく、ただ雨雲レーダーを見ていた。 - 高田:高齢者は昔からの知恵をお持ちであるし、近助という言葉はとても良い。
- 下間:文化庁にいたときに、線状降水帯が発生。伝建を担当していて水害後の姿も見てきた。
水害後に直す行為は保護と異なり、伝建地区だけに補助金を出せない。想定と準備が大切。 - 住民:電気工事で新町の住宅の壁をはがした時に18年の水害の跡を目の当たりにした。
私の腰まで跡があり、ここまで水がきたらどうにもならないと思った。 - 高田:記録はあちこちに残っているのではないか。出来るだけ保存し、伝えることが大切。
- 住民:95歳。昭和18年の雨の時は女学校3年の生徒で大社の寄宿舎にいた。豪雨の4、5日後に
大森に帰った。兄が五百羅漢にいて3軒が半壊。三国台にから水が来て半壊。川の上に家が
あったが、みんな流れていた。恐ろしさを目にした。 - 大國:文化財をまもりながら暮らしも守る必要性がある。
- 下間:他の地域では、景観に影響があるが、堤防を作るかについて国交省と協議した事例もある。
設計が進んでしまうと変更が難しいので、早い段階で話し合いが必要。 - 高田:川に生えている木は危険。クズも要注意。
- 下間:今日町を歩いていて、川に降りる階段があったが、今は降りられないように見えた。
降りられれば、護岸の整備、安全につながる。親水性の高い空間が防災につながる。 - 高田:かつて川は洗濯場所であった。川が生活の一部であった。
- 大國:羅漢町橋の問題も、移設するではなく今の技術では対策が出来るのではないか。
- 住民:川、山、自分の世代では自分のものではない感覚。手を入れにくい。かつては住民たちが手入れをしていたが出来なくなっていた。みんなで管理すべきものがみんなのものでなくなっている。
- 大國:Iターンの人に発言して頂きたい
- 住民:移住してきて6年目になる。コロナがあって避難訓練も出来てなかった。都会では防災について考えることが少なかったが、こちらに来て意識がかわった。
意見交換
遺跡の保全と水害を考える会 アンケートとりまとめ
- ”防災”は、地域で暮らしていくため重要な要素です。大森地区において。地域(コンソーシアム)、行政が連携し、住民の声を聞きながら、進めていってください。
- 今回参加できなかった町民のみなさんへの情報共有はどのようにされますか?どうにか町民の方にお知らせして大森のみなさんの防災意識の向上をしてほしいです。
- 災害を予防することの大切さを実感しました。・起きた時、対応できるだけの備えも大事であると感じた。・早く行動を起こすこと、日常のケアの大事さも実感した。・もしも・・・のマニュアル作成大事
- 前回、今回とこのような集まりがある事が町民意識の良い方向への変化になると思います。
- 下間先生のお話の中で、住民が何かをおこすとき、関心を強く抱くとき、根底に「危機意識」があるという点について、まさにその通りだと強く共感しました。住民の集まり、話し合いが重要と感じた。
- 今後、起こりうる危険に対して、町内全体の学びの必要を考え、防災について学びの時を与えて下さり、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。
- 大森の方々の考えやこれまでの蓄積、日頃の取り組みなどを知る機会となり、よい機会でした。守るべき町並み、まち・くらしであるのは当然ですがそもそもなぜ守るのか(大森町文化財保存会の存在・意味)というところを認識すること(行政の関係する部署の中でも)が重要だと感じました。
- 水害等について考える機会をいただき、よかったです。ありがとうございました。何かの時の「近所」そうだなとも思いました。
- 川に大きな岩が流れ、次の大雨でまた岩山が崩れた時、どうなるか心配になる。空家が雨風で痛んで瓦が落ちている。空家の荷物(ストーブ・本)などが川に流れ始めている。次の大雨で何が流れるか・・・
- 自分の住んでいる裏山が崩れるのではないか?と心配にはなります。景観もあるのでコンクリートで埋めるんはいかがなものかとも思うので、崩れないことを願うばかりです。水位が気になるので、川をのぞきに行ってます。
- 町並みを守る⇔暮らしを守る、良い勉強をさせていただきました。行政の立場で参加させていただきました。景観との調和の大切さを改めて感じました。地域の方と話をすることを大切に安全、安心なまちづくりに強く取り組む思いを持つことができました。
- 「人と文化財との共存」は大切なことだと思いました。その為にも予防と計画の重要性を町民で共有していきたい。大雨が振った時の避難場所・方法・タイミングが感覚で動いているかもしれないので、目安が大事では・・・
- 最近、油断していると気づかされました。最初の自助から始めるべき、いつどこでゲリラ豪雨が起きるか分からない。遺跡ともども町全体が危険にさらされている。これからも問題は多い。
- 地域防災で大事な「自助」「共助」に加え「近助」というくくりも非常に大事であるという話があった。これは普段からの近所付き合いがなければ難しいと思うので地域行事等への積極参加が求められると思います。大森は地域交流が非常に盛んなので大丈夫と思いますが。
- 梅雨の時(大雨が降った後)にはこうしておけばよかったと思うことがあるが、シーズンが終わるとすぐ忘れてしまう。一年を通じて水害を考え、対策を講じる行動をとっていくことが必要と考えます。「近助」というワードを改めて見直していきたいと思いました。
- 川の木や草、石垣など、気にはなっていたが、高齢のため、自分では行うことができない人が増えてきていると思います。みんなで協力して何とかできないかと思います。
- バーチャルでの水害のシミュレーション。その共有で対策を一人一人の危機意識の醸成。
- 考える機会を作っていただきありがとうございました。日頃の訓練が大切だと改めて思いました。日々の忙しさに甘えず、参加していきたいと思います。
- 自然災害のたびに未曽有のという言葉を耳にします。とはいえ、過去の情報は貴重だと思います。町民の情報共有を望みます。形ある文化財と共に、形のないものも守っていかなければならないと感じました。
- 文化財=防災。主体性を持つ。先人の意見大事。段階的行動(災害)。河岸の整備、行政が早急にした方が良い。木切れが水の流れをさえぎっている。カーブのところに土砂がたまる。
河川を中心にした町内視察
日時:2024年4月14日(日) 10:00~11:30
場所:銀山橋~上佐摩経由、長屋橋まで
参加者:高田龍一、下間久美子、大國晴雄、松場大吉、林泰州、生田光晴、金田郁也、中田敏彦
銀山橋
- 周辺状況
昭和50年ごろに銀山公園建設工事の時に新しくかけられた橋。コンクリート製で擬木風のデザインになっている。 - 過去の利用・今後課題や改善案
- 川の周辺に草や竹、己生えの木は水害の原因となるために刈る。
- 橋周辺は岩盤のため昔は深みを利用して泳いだりして遊び場として利用していた。
上佐摩地区水路
- 周辺状況
世界遺産センター方面から流れる水路と三石谷から流れる水路の合流地点。周辺の住宅の多くは水路の上に離れの部屋を建てている。 - 過去の利用・今後課題や改善案
- 世界遺産センター方面からの水路は現在河川ではないが、河川にする方法はあるのか。
- 三石谷川からの合流地点が狭いので、奥の畑に行く通路を狭くして水路を広くすることも有効かもしれない。
羅漢寺前
- 周辺状況
世界遺産センターからの水路と三石谷川の合流地点より少し下流。堰堤の跡か段になっている - 過去の利用・今後課題や改善案
- 越水することを覚悟して考えてみる。道路にあふれさせて被害を出さないようにすることも案。
羅漢町橋
- 周辺状況
橋がアーチ状になっているために水害の危険性大。現在は周辺住民の有志が定期的に除草作業などを続けている。 - 過去の利用・今後課題や改善案
- 根入りがどれぐらいあるのか。あれば掘って水量を増やすことができるかもしれない。
- バイパス案も考えられるかもしれない。
- 石垣の除草など全体の修景が大切である。
大音寺橋
- 周辺状況
銀山川と上佐摩方面からの水路との合流地点のため水量が増える。 - 過去の利用・今後課題や改善案
- 大森の橋で唯一橋脚がある。
- 木造から木造に修復したために強度の不足も心配である。
大森座橋
- 周辺状況:新設された時に以前とは少し橋の角度が変わっている。
- 過去の利用・今後課題や改善案
- 以前は木造の橋だったが鉄筋コンクリート製になる。
- 景観面での問題はあるが安全面での課題はクリアしている。
新町
- 周辺状況:
駒の足から新町にかけての河川。流れはゆるやか。両側に建物があったが流されたために他の場所より川幅が広い。 - 過去の利用・今後課題や改善案
- 水量をとるために根固めした可能性あり。護岸保護のため(想像)
- 災害時だけ使用できるトンネルを建設することも検討。道路に流れた水もそこに入れてほしい。
長屋橋
- 周辺状況:
以前は農業用水を確保するために堰堤があり、増水時には近隣の住宅に浸水することもあったが、近年行われた工事により若干改善されている。 - 過去の利用・今後課題や改善案
- 堰堤の完全撤去なども検討。